刀の基本は片手斬り

であると、個人的には思っています。

これは日本刀以外の中国の刀(柳葉刀)などを見ても明らかであるし、平安時代に日本刀が今の形の原型(反りのある鎬造りの形状)になる以前の剣や素環頭太刀を見ても、両手持ち用に作られたものとは、思えません。

また以下のリンク先にも記述がありますが、合戦(乱戦)だと片手の方が何かと都合が良いようです。

togetter.com

試斬(据え物斬り)でも、剣道や居合道の高段者の人が意外と失敗してしまうという話は割とよく聞きますが、考えてみればこれも当然で、一本の長い刃物を二本の腕で操作しているわけですから、刃筋を求められない竹刀での「打ち」とは異なり、極めて高度な身体操作が求められるというのも、道理です。

僕自身もかつて剣道部に1年半ほどいた頃、最初に習ったのは「正面素振り」(剣術で言えば「真向斬下」)ですが、これって今にして思えば、ボクシングジムで左ジャブを教えずにいきない右ストレート※を教えるようなもんだよなぁと思います。

※左ジャブと右ストレートに関してはまた別の機会に語りたいと思いますが、どちらも極めようとすれば奥深い技術であることは共通していながらも、ジャブは技術の巧拙によらずとりあえず手を出せば成立する技であることに対して、ボクシング・キックボクシング系のストレートというのは初心者が習得すること自体のハードルが高い技でもあります。フィクションの話になりますが、アニメ『はじめの一歩』のオリジナルストーリーでも、鴨川会長は鷹村さんに初試合までの間、右は教えず徹底的に左ジャブだけを叩き込んでいましたね。

 

話は戻って、おそらく刀を両手持ちにするのが基本となったのは、戦が騎馬戦術から徒歩戦術になり、剣術流派の源流が成立したあたりの出来事なのではないでしょうか。

そして合戦(介者剣術)と素肌剣術(真剣試合)との両方を経験し、時代と武術史の転換点にいた宮本武蔵は、そのことに気付いていたのではないか、とも思うわけです。

nitenichiryu-tokyo.online

あとは余談ですが、身体を真正面に向けて(正対して)構えるのって、剣道や柔道、フルコンタクト空手やキックボクシングのような「競技試合」とセットになった現代武道や格闘技※が殆どだと思います。

※相撲は例外で、遅くとも織田信長の頃には既に今の競技形態(ルール)が成立していたため。

反対に、古流武術や伝統派空手、比較的歴史の古い中国武術(拳法)など武術色の濃い(武器術との身体操法的繋がりが強い)ものは、正対しないものが多いように感じます。

(これらの話は↓の書籍で「攻脈線」という概念で詳しく解説されています)

合気道躰道なども、自分は正面を取っても相手の正面からは外す、という動きが多く見えます。

截拳道ジークンドー)は成立過程的にもこれらの伝統(古流)武術と近現代格闘技の良いとこ取りで、遠間では半身で構えて、近間になればなるほど正面向きに近いポジショニングをしているように見えます。

(↓のリンク先動画内で、12分50秒くらいからその解説がされています。個人的に大好きなYouTubeチャンネルのひとつです)

youtu.be

武器の歴史や理合、歴史的な成立過程やその変遷を知ることが、身体操術や徒手体術(武術)の上達にも役立つのだと思うわけです。

 

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↑画像は2019年開催の全日本格斗打撃選手権大会の小太刀・短棒術決勝戦。手前の黒い道着が筆者。相手の振り出しよりも後から繰り出した片手斬りが籠手にヒット。映像については解説付きで、いずれまたどこかの機会にでも出せればと思います。